
MICIN×AZ
「オンライン診療」テックベンチャーとの挑戦
感染リスクを危惧するCOPD患者さんへ、安心の継続治療を届けたい。
「オンライン診療」テックベンチャーと目指す、新たな医療への挑戦
プロジェクト事例
- 概要
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- マイシン社のオンライン診療サービス「curon」を用いた、COPD患者へのオンライン診療に向けた検証プログラム
- COPDは、COVID-19の重症化リスクが高い基礎疾患
- 背景/課題
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- そのリスクの高さから、通院を含む継続治療が困難になることが予想された
- 高齢者患者の中にはデジタル技術に慣れていない方も一定おり、ソリューション選定に課題あり
- 検証結果
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- 通院への不安感、オンライン診療へのニーズは確かにある
- 若年患者からは、オンライン診療環境構築を切望する声も
2020年に全世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。流行当初より、基礎疾患があると重症化の可能性が高いとされ、その中でも特にリスクが高い疾患のひとつに、慢性閉塞性疾患(以下COPD)があります。
継続治療による長期的な症状コントロールが必要なCOPD患者さんが、COVID-19流行下においても安心して治療継続できる環境構築を目指し、アストラゼネカと新たにタッグを組んだのが、オンライン診療サービス「curon(クロン)」を提供する株式会社MICIN(以下、マイシン)です。
今回の両社の取り組みについて、マイシン Senior Vice President の草間 亮一氏と、アストラゼネカ i2.JP Director の劉 雷氏にお話を伺いました。
見えない通院への不安。COPD患者さん×オンライン診療に見出した可能性
——はじめに、アストラゼネカ社とマイシン社でどのような取り組みをされたのか、プロジェクトの概要を聞かせてください。
劉 雷(以下、劉):今回マイシンさんと取り組んだのは、COPD患者さん向けの「オンライン診療」に向けた検証プログラムです。
オンライン診療サービス「curon」を通じて、患者さんや患者さんのご家族が通院せずともオンラインで診察を受けられ、医師が患者さんへ継続的サポートができる環境を構築できるよう、実証実験を企画、推進しました。

——この取り組みには、どのような背景があったのでしょうか?
劉:COPD患者さんにフォーカスしたプロジェクトを推進した背景には、COVID-19の世界的大流行があります。
COVID-19の国内流行第一波がはじまり、基礎疾患を持つ方は重症化する可能性が高いことが判明。その中でも呼吸器系疾患、特にCOPD患者の方は重症化リスクが高いセグメントに位置付けられました。
そもそもCOPD患者さんは継続治療による長期的な症状コントロールが必要ですが、感染リスクの高さから、通院控えや自己判断による治療中断、それによる治療の遅れが発生することが想定されました。患者中心主義を掲げて活動する我々としては、患者さんのアンメットニーズがあると考えました。
COPDを含む呼吸器領域は、アストラゼネカも重点的に取り組んできています。ただ、医療従事者の指導のもとで正しく治療や服薬が継続できなければ、期待する治療効果を望めません。
感染リスクを回避しながら、持続可能な治療を実現するために何かできないだろうか——。
対象治療薬のマーケティングチームと議論を重ねる中で、ソリューションとしてたどり着いたのが、オンライン診療でした。
COPD患者さんのためのオンライン診療を提供することで、通院というハードルをなくし、安心して治療を継続できる環境を構築するとともに、安定的かつ長期的な症状コントロールも可能にしたいと考えたのです。
そうして、アストラゼネカが蓄積してきたCOPDに関する知見と、マイシンさんがもつプラットフォームを掛け合わせ、包括的な患者サポートに向けたプロジェクトが発足しました。
共鳴した、未来の医療に対するビジョン
——COPD患者さんの課題解決のため、なぜアストラゼネカ社とマイシン社の2社がコラボレーションするに至ったのでしょうか。プロジェクト化される前のストーリーも聞かせてください。
草間 亮一(以下、草間):劉さんとの最初の接点は、まさにCOVID-19の国内流行第一波がやってきた頃。今回のプロジェクトに限らず、より良い医療の実現に向け、何か一緒にお取り組みができないだろうかと相談させてもらったことがきっかけでした。
というのも、私たちはオンライン診療というプラットフォームは持っていますが、患者さんの病気を治すために必要なお薬は持っていません。
医師による適切な診断と、治療薬の選択ができてはじめて、患者さんが必要とする医療の提供を実現できます。オンライン診療はあくまでもパズルのピースのひとつ。本気で患者さんの医療体験を変えていきたいのであれば、製薬会社さんとのコラボレーションが欠かせないと考えていました。
その扉を開いてくれていたのが、アストラゼネカであり、「i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー)」であり、劉さんでした。
劉:実は今回のプロジェクトでは、ベストパートナーを見つけるために、オンライン診療を提供するほぼすべての会社さんにお話を聞かせていただきました。その中で、未来の医療へのビジョンを語り合い、共鳴したのがマイシンさんですね。
「オンライン診療を糸口に、患者に寄り添った医療体系を広げていきたい」というマイシンおよび草間さんの想いは、アストラゼネカが掲げる「患者中心の実現」とも重なる部分が多く、ぜひ取り組みましょうとご一緒した経緯があります。
——その後は具体的にどのようにプロジェクト化していったのでしょうか?
草間:劉さんに、アストラゼネカ内の対象治療薬のマーケティングチームと私たちマイシンを橋渡しする役目を担っていただき、まずはマーケティングチームにソリューション案と利用シーンを想定しながら提案していきました。
何度か提案を重ねる中で、「COPD患者の方が電話やスマートフォンアプリを活用して、診察予約から医師による診察、医療機関への支払い、など一連のオンライン診療」を提供し、その有用性を「臨床現場での定性調査により評価する」という共同検証プログラムに最終決定。
対象患者数は10~15名、期間としては3ヶ月程度を想定し、プロジェクトをスタートしました。
こういったプロジェクトは起案から実施に至るまでに時間がかかることも多く、特に我々のようなスタートアップとアストラゼネカさんのような大企業は、求めるスピード感に差が出るケースも少なくないと思います。その点、今回はマーケティングチームの方々も「患者さんをサポートしたい」という思いが強く、比較的スムーズに協力体制の構築とプロジェクト化ができたと感じています。

3週間で訪れた方向転換、感染リスクと戦う患者さんの確かな声
——いよいよ検証スタートですね。プロジェクトは順調に進んだのでしょうか?
草間:「面白いコンセプトだから、一緒にやりましょう」と検証に協力してくれる医師・医療機関はすぐに見つかりました。ところが、協力してくれるCOPD患者さんを見つけるところで難航してしまった。
劉:COPD患者さんは高齢の男性が多いため、「75歳の男性患者が、オンライン診療を使ってリスクを回避しながら治療を維持する」という概念実証ができたら美しいストーリーでした。
でも実際には、スマートフォンやアプリを使いこなすのが想定以上に難しく、能動的にデジタル活用して治療を継続していくには、高いハードルがありました。つまり、当初の検証自体が成立しないことが判明したのが、開始3週間くらいのタイミングでしたね。
草間:COPD患者さんが最も多い年齢層と、オンライン診療を活用する年齢層にズレが生じていることは当初から分かっていました。curonのユーザー層は60代以下が主ですが、 COPDは70歳以上の方の有病率が最も高い病気です。
しかし、COVID-19の流行により、患者さんやそのご家族の意識変容が進み、デジタル活用への意識も高まっているのではないかと考えていたところでした。その想定が、実情とずれていた。
調査を進める中で、たとえば自宅から徒歩10分程度のクリニックにご家族の付き添いのもと通院するという環境の場合、「通院への不安」「オンライン利用への意欲」はそれほど高まっていなかったことがわかってきたのです。
この発見は、患者さん一人ひとりのニーズの違いを理解するプロセスがいかに重要かを再認識させてくれるものでした。
——検証が難しいことが判明したのち、プロジェクトはどうされたのですか?
草間:臨床現場での検証から、インタビュー調査へと方向転換しました。新たに20名以上のCOPD患者さんを募り、一連のオンライン診療プロセスをご案内しながら体験していただく。その後、使ってみての感想や活用へのニーズをインタビューしました。
インタビューの中で印象的だったのは、当初の想定にあった「病院に行くのが怖い。避けられるなら避けたい」という患者さんの真の声。通院への不安感を抱えている患者さんが間違いなくいらっしゃることがわかりましたし、課題感も明確になりました。
劉:もうひとつ、日常的にスマートフォンを利用している30代の女性患者さんへのインタビューでは「実際に利用できるなら、すぐにでも使いたい」という声をいただけたのも印象的でした。
高齢かつ男性の患者が多くを占めるCOPDにおいては少ないケースではあるものの、必要な人へ適切なものを届けることの重要性と、将来の有効性を再認識する機会になりました。

失敗から生まれる新たな芽、将来を見据えた継続的パートナーシップ
——2020年の12月をもって一旦プロジェクトは完了されているそうですが、改めて全体を振り返ってみていかがでしょうか。
劉:現時点では、高齢のCOPD患者さんが誰かのサポートなしに単独でオンライン診療を活用するのは難しいというのが結論です。
ただし長い目で見れば、デジタル技術に触れている世代が歳を重ねていくことは確かですから、オンライン診療が将来的に当たり前に受け入れられる機会は必ずやってきます。
その来たる将来をしっかりと見据えながら、現在の高齢患者でも使いやすいオンライン診療のあり方を検討し続けたいです。さらに、この学びを若年患者の多い疾患領域にも生かしていけたらと考えております。
草間:今回フォーカスしたCOPDに限らず、疾患をお持ちの方の年齢とオンライン診療を活用するユーザーにギャップがある疾患は多数存在します。
そのギャップをいかに埋めていくのか。デジタルデバイスに慣れない患者さんに対して、新たなソリューションを再考するヒントになりました。
実際に、マイシンではケーブルテレビでオンライン診療ができるサービスを提供したり、ウェブブラウザでオンライン診療を可能にしたりと、デジタルに不慣れな方々に寄り添うソリューションが生まれています。
アストラゼネカさんとのお取り組みにおいても、他の疾患領域担当のチームとも連携させていただき、新たなプロジェクトに向けて相談をしている最中です。
検証スタート時の想定からすれば成功とは言い難いプロジェクトでしたが、未来の医療を変えるという観点からすると、今後につながる大きな学びのある一歩になりました。
——今回のプロジェクトでの教訓が、すでに新しいチャレンジにつながっているのですね。最後に今後の展望を聞かせてください。
草間:私たちのようなスタートアップは、現状に対する強い違和感と、「未来は絶対こうなるよね」という根拠のない確信によって、突き動かされています。
病院に行き、2時間待ち、先生に診てもらえる時間はたったの3分というのが当たり前に起こるのが、今の医療の世界です。患者視点では、必ずしも良いサービスとは言えない実情があります。でも、ステークホルダー全員にとって最適な医療サービスの形が必ずあるはずだと思っています。
医療体系に変革をもたらすためには、そこに関わる全員の意識改革がどうしても必要ですが、小さなスタートアップの力には限界があります。アストラゼネカさんのような心強いパートナーの存在は、必要不可欠です。
一方で、スタートアップから大企業へのアプローチはなかなか容易でないことも事実で、今回その場を用意してくださった「i2.JP」の存在は本当に有り難い。
今回のプロジェクトにおいては、先行きが不透明な中で一緒にチャレンジできたことをとても感謝していますし、同じ世界を目指すものとして、今後もご一緒いただけたら嬉しいですね。
劉:私たちも、「患者中心の医療」の実現を目指していますが、非常にチャレンジングなことだと認識しています。
ただ、国外に目を向けてみると、オンライン診療をはじめとする患者中心の医療がどんどん実現していますよね。ということは、日本でも確実に可能なはずです。
草間さんがおっしゃる通り、それを推し進めるためには一人ひとりの意識改革が必要で、垣根を越えたコラボレーションがそれを後押しすると、私は考えています。「i2.JP」が目指すのは、まさにそのエコシステムです。
大企業・スタートアップなどのコネクションをもっともっと増やしていきたいと思っていますし、私はそれを橋渡しする人間として、いつでもオープンにパートナーさんを探し求めています。「i2.JP」の取り組みに共感してくださる方は、ぜひ気軽にお声掛けいただきたいですね。


- 草間 亮一(くさま りょういち)
- 株式会社MICIN(マイシン)
Senior Vice President
マッキンゼー東京支社およびニュージャージー支社に勤務し、主に製薬や医療機器など、ヘルスケア分野で幅広い経験を持つ。2015年にMICINを共同創業

- 劉 雷(りゅう れい)
- アストラゼネカ株式会社 Innovation Partnerships & i2.JP
Director
GEヘルスケア・ジャパンにて医療機器の研究開発に従事した後、コンサルティング、スタートアップ、生命保険会社などを経てアストラゼネカへ。オープンイノベーション・ネットワーク「Innovation Infusion Japan (i2.JP)」をリード
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