
Ubie×AZ
「AI問診」で喘息患者に
“気づき”を届けるための挑戦
コロナ禍で増える「ぜん息潜在患者」へ、AI問診で気づきを届ける。要治療者の50%を新規受診につなげた、検証プログラムの舞台裏
プロジェクト事例
- 概要
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- オンラインで症状から病名を調べられる「AI受診相談ユビー」を活用した、ぜん息の早期発見・早期受診のためのサービス提供に向けた検証
- 背景/課題
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- ぜん息はせきを伴う疾患で、潜在患者も多い
- COVID-19の影響で、せき症状を持つ患者の受診控えが増加
- 検証結果
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- 検証期間中、せき症状を持つ約2万人がAI受診相談ユビーを利用
- COVID-19感染リスクや第三者の目への不安感から、通院控えがあったことが浮き彫りに
- 50%を超える方の通院につながり、ぜん息患者の新規発見を実現
現代人に増加中の病気、ぜん息(喘息、ぜんそく)。その一方で、自覚のない潜在患者が非常に多い病気ともされています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下において、せきの症状を伴う患者の医療機関への受診控えが顕著であり、ぜん息の早期発見と治療をサポートするため、アストラゼネカと「AI受診相談ユビー」を提供するUbie株式会社(以下、ユビー)がヘルスケア・イノベーションハブi2.JP(読み方:アイツー・ドット・ジェイピー)を利用し、新たなコラボレーションプロジェクトを実施ました。
今回の両社の取り組みについて、ユビーの岡 アキラ氏、アストラゼネカの地主 将久氏、大久保 悠里氏にお話を伺いました。
たかがせき、されどせき——AI受診相談で潜在ぜん息患者のサポートを
——はじめに、両社でどのような取り組みをされたのか、プロジェクトの概要を聞かせてください。
地主 将久(以下、地主):ユビーさんと一緒に取り組んだのは、ぜん息の症状を持つ患者さんが、病気の「早期発見」と、病院への「早期受診」ができるようにサポートするサービスの提供に向けた検証です。
ぜん息との関連性がみられる潜在患者さんに向けて「AI受診相談ユビー」を届け、症状から関連する病気を調べたり、近隣医療機関の受診などの適切な対処法を知れたりするようなサポートを実施しました。

——この検証をスタートさせたのには、どのような背景があったのでしょうか?
地主:COVID-19が流行したことで、「せき」に対する世の中の感度が一気に高まり、とにかくせきの症状に対してみなさんが敏感になりました。
医療機関への道中や待合室でせきをしていたら、周囲からどんな目で見られるか……。ぜん息患者さんの受診率が下がることはすぐに想定されました。実際に調査してみると、ぜん息の症状で病院を新たに受診される方が顕著に少なくなっていることは明らかでした。
せき症状があるなかで、自分が感染リスクを背負うのも怖いし、外出して周囲に迷惑に思われるのも辛い。そうして、医療機関を受診しないという自己判断をされる方が多かったのではないかと思います。「ただののど風邪だろうから、家で治そう」と。
ただ、せきは、本格的な治療を必要とする疾患のサインである可能性もはらんでいます。そのひとつがぜん息なのです。ぜん息は、初期症状を見逃してしまうと適切な診断がされない可能性もありますし、重症化する恐れがあります。
そのような状況になる前に、せきの症状で困っている患者さんをサポートする方法はないだろうかということで、社内でタスクフォースが立ち上がりました。
——ユビーさんとはどのように出会ったのですか?
地主:タスクフォース内で課題解決のためのソリューションを検討する過程で、「問診」というところまでたどり着いていました。そこで、i2.JPディレクターの劉さんにその旨を相談し、すぐにユビーさんをご紹介いただいたという流れです。
岡 アキラ(以下、岡):この取り組みの以前から、i2.JP内で劉さんとはディスカッションさせてもらっていて、我々のサービスの特徴や提供できる価値は既にお伝えしていました。
特に病気の早期発見は、「AI受診相談ユビー」の強みが発揮できるフェーズであり、医療機関を受診するのをためらう潜在患者さんが抱えるペインとも相性がいい。結果として、お話をいただいてから非常にスムーズにプロジェクト化が決まりました。素晴らしいマッチングを図っていただいたと思っています。
地主:せきの症状がある方に「AI受診相談ユビー」を受けてもらうことで、症状の原因やぜん息との関連性を伝えられるのか、医療機関へ行くか否かを知るのに十分な手がかりを提供できるのか。ユビーさんの協力のもと、その検証をスタートしました。

適切なターゲットに「AI受診相談ユビー」を届けるために。検証過程で重ねた試行錯誤
——具体的に、どのように検証を進めていったのでしょうか?
地主:スピーディーに検証結果を出すために、アンケートという手段をとりました。
せき症状がある方に「AI受診相談ユビー」をレコメンドし、AI問診の結果どういう判定が出たのか、ぜん息との関連性が示された場合はそれを機に医療機関を受診したのか、医師の診察を受けた方はどの薬が処方されたか。そこまでしっかりとフォローしたいと思いました。
このアンケート設計にあたっては、岡さん率いるユビーさんの知見をたくさんご提供いただきました。患者さんがどういう行動をとり、どういう流れで薬までたどり着いたのかを追うため、非常に臨場感のあるアンケートを設計していただけたことが、検証プログラムの重要なポイントになったと思います。
岡:ありがとうございます。逆に、ユビーを使った問診の段階で、何をどういった基準で判定していくかというポイントは、製薬会社さんが最も知見を持っていらっしゃる部分です。我々がすでに保有していたデータやノウハウをブラッシュアップする形で、アストラゼネカさんの知見をご提供いただきました。
地主:こういったプロジェクト設計をつめていく段階では、かなり密にコミュニケーションをとっていましたよね。アストラゼネカ内で最も医師やぜん息患者さんに近い存在であるマーケティング部門の大久保を加え、毎週ミーティングを重ねて進めていきました。

——ところで、せき症状に不安を感じている患者さんとはどのように接点を持ったのでしょうか?
大久保 悠里(以下、大久保):主にGoogleの検索エンジン広告やディスプレイ広告を配信で、ターゲット患者さんにアプローチしました。
実は今回のプロジェクトで一番苦労したのはこの部分です。限られた予算の中で、いかに多くの人にリーチするかは大きな課題でした。
広告出稿の対象とする検索キーワードは、「長引くせき」や「息苦しいせき」など、ぜん息潜在患者のニーズが明確に表れており、かつ検索結果で上位を取れそうなものを選定。反響を見ながら、少しずつブラッシュアップしていきました。
配信地域に関しては、去年は各都市で点々と感染拡大が起こっていたので、感染が落ち着いているエリアと急拡大しているエリアを組み合わせながら、配信していきました。
広告配信に関しても、ユビーさんにかなり尽力してもらいました。私たちは薬の領域には強くても、デジタル領域は苦手な部分です。どこにどれぐらいの金額を投下するべきか、かなり緻密な計算と設計をしてサポートしてくださったのは、非常にありがたかったです。
ぜん息への気づきを提供、50%以上が新規受診
——アンケート調査はどのような結果だったのでしょうか?
岡:非常に良い結果を得られました。仮説通りの回答も多く、ぜん息の早期発見・早期受診への貢献が伺えました。
やはり、「せきが出るので、コロナウイルスに感染しているか心配で調べてみた」とか、「コロナ流行中に受診すると周りの人に迷惑じゃないかと思って控えている」という方が多くいらっしゃったんです。
また、「AI受診相談ユビー」の問診でぜん息との関連性が示されたに対しては、アストラゼネカさんが運営する「チェンジ喘息!」というサイトへの遷移を促進しました。ぜん息との関連性を自覚された方が、サイトで紹介している適切なプロセスを踏んできちんと医療機関を受診してくださり、医師によって正式にぜん息診断を受けたという方も数多くいらっしゃっいました。
検証期間中にアプローチできた母数が2万人、その中でアンケートに答えてくださったのが200名程度。約1%の情報ですが、回答内容からその方がどれだけ迷っていたのか、どれほど受診してよかったと思っているのかが、とにかく伝わってきました。
大久保:これまでも、ぜん息患者さんの役に立ちたいという思いで「チェンジ喘息!」を運営していましたが、サイトを見たことで医療機関を受診し、適切な薬の処方と治療を受けている人がどれほどいるか、確認する術はほとんどありませんでした。
それが今回の検証で、きちんと行動変容をサポートできていることが分かりました。これは、ぜん息治療薬のマーケティングチームにとっても大きな収穫となりました。
——実際に医療機関を受診するなどの行動を起こした方は、どのくらいいらっしゃったのですか?
大久保:問診の結果で病院の受診を推奨された方の50%以上が、実際に医療機関を予約または受診したという結果でした。2人に1人の行動が変わっているというのは想定以上の数字で、驚きとともに嬉しさも大きかったです。

さらなる問診精度の向上と、ぜん息の適切な治療に向けた新たなソリューションへ
——2人に1人の行動変容を起こしているというのは、すばらしい検証結果ですね!その検証結果は、現在どのように生かされているのでしょうか?
地主:アンケート回答の絶対数こそ少ないものの、どれほどの行動変容を起こし、どのような医療機関を受診し、そこでどう診断され、なんの薬が処方されているのかというデータを得られたのは非常に大きな収穫でした。検証過程では、改善ポイントや問診精度の高め方も見えてきたので、それを次に生かしているところです。
新たなソリューションとして、既存のぜん息患者さん向けに治療継続をサポートするアプリケーション「EDGE」のリリースにも繋がっています。
大久保:新規ぜん息患者さんへのアプローチを続けることに加え、現在治療中のぜん息患者さんに気づきを届けていくことに挑戦しています。
実際に、患者さんの中には、すでにぜん息だとわかっていながら、症状を軽視されている方も多いです。より重症なぜん息の方をいかに特定し、どのように注意を促すかはもう一つの課題です。
何れにせよ、「AI受診相談ユビー」の活用が欠かせない部分であり、引き続き岡さんと共にプロジェクトを進めていきたいです。
——改めて、今回のプロジェクトを振り返ってみていかがでしょうか?
岡:私たちは、テクノロジーで人々を適切な医療に案内することを標榜し、AIを活用したプロダクトを磨き、それをどう患者さんとお医者さんに届けていくかを、日夜考えています。
しかしながら、スタートアップの限られたリソースでは、やりたくても手が届かない領域もあるのが現実です。今回の「ぜん息の潜在患者」もターゲットの規模が大きく、私たちだけでその領域にフォーカスして取り組むのは難しい部分もあったかと思います。
そうしたところをアストラゼネカさんにバックアップしてもらい、プロジェクトとして取り組めたことは非常に貴重な経験であり、未来の医療の実現に向けて共に歩めていることを本当に感謝しています。
足元のプロジェクトとしては、先ほど大久保さんからお話があったように、重症ぜん息の方に、より深くアプローチしていくところです。より多くの患者さんへ届けるのが、直近の我々の使命です。
大久保:治療薬のマーケティングチームとして患者さんが適切な治療につながるようにサポートしたい強い気持ちはありつつ、その方法論は持っていないのが我々の状況でした。
その点、様々なテクノロジーを活用し、潜在患者へのアプローチから成果の測定までのイメージを持てるように一緒に絵を描けたのは、ユビーさんが情熱的にコミットしてくださったから。本当にありがたかったです。
地主:岡さんを始め、ユビーの皆さんがプロジェクトに対して熱い想いを持ってくださり、近い熱量でフラットに議論ができました。
COVID-19の感染拡大が続いている情勢で患者さんに早くソリューションを届けるには、スピーディーにプロジェクトを進める必要がある。そしてそのためには、お互いに汗をかき、協力していかなければなりません。企業をまたいだプロジェクトでは互いのコミット度合いにギャップが出てしまうケースも見てきましたが、今回はそういったずれがなく、スムーズな協力を実現できたと思っています。
岡:プロジェクトを円滑に進められ、検証を実現できたのは、i2.JPというフラットに意見を交換しコラボレーションする土壌があるからこそですよね。i2.JPのような存在があることで、患者さんの課題発見から解決まで、医療の変革が加速するのではないかと感じています。
地主:ユビーさんも当社も、患者を第一に考えた医療の実現という未来を描いている、近しい思想を持ったパートナーだと思っています。今回得られた成果をまた新たな患者さんの課題解決にもつなげていきたいですし、問診からより良い治療薬の選択のサポートなども強化していきたいと考えています。
その道のりには、製薬会社としての知見を活かせる部分もあれば、我々では足りない部分もある。今後もユビーさんのような情熱的な方々とご一緒させてもらいながら、患者さん中心の医療実現に向けて、一歩ずつ歩みを進めていきたいですね。


- 岡 アキラ(Akira Oka)
- Ubie株式会社 Business Development
新規事業を開発するUbie Discovery所属。「AI受診相談ユビー」「AI問診ユビー」をベースにした製薬領域における新規プロジェクトの立ち上げおよびリードを務める。

- 地主 将久(Masahisa Jinushi)
- アストラゼネカ株式会社 メディカル本部オンコロジー部門長 医師 医学博士
メディカル本部にてオンコロジー領域の部門長および統括部長を務める。本取り組みのプロジェクトマネージャー。

- 大久保 悠里(Yuri Okubo)
- アストラゼネカ株式会社 呼吸器・免疫事業本部 バイオロジクス ブランドマネージャー
重症ぜん息患者向け治療薬におけるマーケティングを担当。製品価値の最大化に向けた戦略立案と実施を担っている。
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