
I'mbesideyou x AZ
コミュニケーションの定量化に挑戦!
MR領域にラーニングイノベーションを:1on1面談における感覚的コミュニケーションの定量可視化とその活用
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)拡大により、リモートワークを取り入れる企業が増加。業務のデジタル化やコミュニケーションのオンライン化など、あらゆる企業活動において、大きな変革が求められてきました。
「人材開発・育成」領域もそのひとつ。企業のケイパビリティを向上させるため、アストラゼネカとともに新たなコラボレーションプロジェクトを推進したのが、マルチモーダルAIによるオンラインコミュニケーション動画解析サービス「I'mbesideyou」を提供する株式会社I'mbesideyou(以下、アイムビサイドユー)です。
今回の両社の取り組みについて、アイムビサイドユーの神⾕ 渉三氏、アストラゼネカの細田 征一氏、春本 洋佑氏にお話を伺いました。
プロジェクト事例
- 概要
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- オンラインコミュニケーション解析サービス「I'mbesideyou」を用いた、コーチングおよびティーチングスキル向上に向けた検証プログラム
- 1on1面談を録画解析し、コミュニケーションをデータ化することで、セルフラーニング機会を提供
- 背景/課題
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- COVID-19の影響でコミュニケーションがオンラインへ移行したことにより、潜在的だったコミュニケーションの課題がより明確になっていた
- オンライン環境下での人材育成領域においてイノベーションが求められていた
- 検証結果
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- 対象者の9割が利用。ヘビーユーザもおり、一定の価値が見込める
- 今回のパイロット利用を経て、1on1面談のみならず、「製品説明ロールプレイ」での活用も視野に導入検討中
潜在的コミュニケーション課題が、リモートワークにより顕在化
――はじめに、アストラゼネカ社とアイムビサイドユー社でどのような取り組みをされたのか、プロジェクトの概要を聞かせてください。
細田 征一(以下、細田):今回取り組んだのは、「マルチモーダルAI動画分析」を活用し、自身が行った1on1面談を振り返る機会を創出するプロジェクトです。
動画分析には、マルチモーダルAI によるオンラインコミュニケーション解析サービス「I'mbesideyou」を活用し、主に「表情」と「会話量」を解析。
解析されたデータをもとに、コーチングやティーチングスキルを見直すセルフラーニングの機会を提供することで、対象者のスキルアップを図ると同時に、彼らから指導を受けるメンバーにもよりよいトレーニング機会を提供する狙いで、実証実験を行いました。

――この取り組みには、どのような背景があったのでしょうか?
細田 :当社ではコロナ禍において、これまでオフラインで実施してきた業務やコミュニケーションがすべてオンライン化され、フルリモートでの業務になりました。
そうしたなかで、コミュニケーションの取り方に不安を覚えたり、相手の変化が見えにくいことでマネジメントに苦戦したりと、業務の至るところでコミュニケーションに関する課題があがってくるように。
新たに課題が発生したというよりは、潜在的だった課題が顕在化したというかたちです。
アストラゼネカにはMR(Medical Representatives:医療情報担当者)が多く在籍しておりますが、MRが主とするのはコミュニケーションにまつわる業務。コミュニケーション課題は、リモート環境下においていかにケイパビリティ向上を図るかという観点で、解決しなければならない重要課題だと感じていました。
――アイムビサイドユーさんとはどのように出会ったのですか?
細田 :ヘルスケア・オープンイノベーション・ネットワーク i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー)ディレクターの劉さんが、イベントでアイムビサイドユーの神谷さんに出会い、「アストラゼネカ社内の困りごとを解決してくれるのではないか」と、私たちセールス・アカデミー部門とマッチングしていただいたという流れがあります。
神谷 渉三(以下、神谷) :アストラゼネカさんとの出会いは、私にとって非常に印象的なものでした。
「面白いサービスですね。検討してみます」と回答して進捗しないケースも多いなか、劉さんや細田さんはその逆で、「あれはどうだろう?」「ここで活用できるのではないか?」と非常に高い関心を示してくださったんです。
実際にプロジェクト化までもスピーディーで、i2.JPには素晴らしいマッチングをしていただいたと思っています。

――細田さんは神谷さんに出会った時、すでにツールの活用イメージが明確だったのでしょうか?
細田 :実を言うと、明確だったわけではありません。MRと医師間のコミュニケーションを分析できればベストだとは思っていましたが、その実現はなかなかハードルが高い。ツールをどこで活用すべきか考えどころでした。
活用シーンの検討を進めていく中で、神谷さんが教育領域に非常に熱心で、人材育成を目的とした活用実績も豊富なことがわかりました。
社内ではリモート環境下における人材育成のアップデートを必要としていたこともあり、コーチングおよびティーチングスキル向上を目的に、まずは上司と部下の1on1面談で検証することに決定。
イノベーション意識の高い春本率いるオンコロジー部門で実証実験を行うという運びになりました。
ポイントはノージャッジメント。評価ではなく、セルフラーニングのためのツール
――このプロジェクトの話を聞いた時、春本さんはどのような印象を持ちましたか?
春本 洋佑(以下、春本):話を聞いて、ぜひとも上司と部下間のコミュニケーションに活用したいと思いましたね。
というのも、私も過去に3年半ほどMRチームのマネジメントを担っていた経験があります。
上司として部下のMRメンバーと1on1面談を定期的に実施していましたが、正直なところ「自分の感覚をもとに伝えていることが、正しいかわからない」「このやり方でいいのだろうか」という不安をずっとどこかに抱えていたんです。
でも、それを確かめる方法がなかったですし、他の同じ役職の人がどのような面談をしているかを知るすべもありませんでした。
私と同じような悩みを抱えるマネジメントレイヤーの人たちがきっといるはず。そうした悩み解決のサポートになるかもしれないと思いました。
――MRチームのマネジメントにおいて、ご自身が苦労された実体験があったのですね。検証はスムーズにスタートできたのでしょうか?
春本:実は、そこが苦労したポイントでした。
これまでクローズドで行われていた面談に動画解析を導入するとなると、面談の受け手であるMRは、「解析によって評価が行われるのではないか」と思ってしまうんです。
いくら評価しないと言っても、ネガティブに捉えられてしまう。「マネジメント層のセルフラーニングのために導入する」と方向を明確にし、ポジティブなツール導入だと伝えていくのにある程度の時間を要しました。
――これは他社でも懸念になるところなのでしょうか?
神谷:そうですね。アストラゼネカさんに限らず、多くの会社で課題にあがるところです。
だからこそ私たちは「何のために使うのか」をすごく大事に考えています。それが「 スタート フロム ラブ」の考え方です。
どういうことかというと、解析される人に対する「愛情」を起点として、活用方法を決めていくということ。今回のプロジェクトは、「困っているマネージャーの力になりたい」という愛情です。
細田さんや春本さんから現場の反応を聞かせてもらいながら、決して評価はしないという「ノージャッジメント」の方針を明確に掲げ、関係者全員の心理的安全性を丁寧に確保しながら進めましたね。
表情と発話量から面談の質を解析
――いよいよ検証スタートですが、どのように動画解析を行ったのですか?
春本:プロジェクト専用の解析ツール付き特設zoomアカウントを設置し、そのzoom上で面談を行ってもらいました。
また、「I'mbesideyou」を活用することで多くのデータを取得できるのですが、今回の検証での解析箇所は「表情」と「発話量」に絞り込んで利用することにしました。
――それはなぜでしょうか?
春本:データがありすぎることで「何をどう見たらいいのかわからない」という事象が発生するだろうと想定したためです。
「やってみたけれど、使い方や見方がよくわからない…」では活用できませんからね。どうしたら使ってみようと思ってもらえるかを議論し、アイムビサイドユーさんに相談しながら解析箇所を決定していきました。
神谷:アストラゼネカさんの場合は、表情分析の中でもさらに「笑顔」「怒り」を可視化することに絞り込みました。
表情というのは世界標準で7つあるとされていますが、日本人の表情は、一律に反応しにくい傾向があります。そこで、特に着目すべき2つの表情に設定しました。
ちなみに世界的な分類では「怒り」なのですが、必ずしもそうではなく熟考しているときの「真剣」さが出るスコアでもあります。今回の分析では概ねその意味で解釈できましたので、本日はわかりやすくするために「真剣」と言い換えますね。

神谷:解析画面にある通り、例えばAIが面談中の上司の表情を「真剣」と判定すると紫色のラインが上昇します。
集中している場合や考え込んでいる場合に「真剣」の数値が出やすいという特徴があるのですが、相手が「どれくらい真剣に話しているか」や、「考えているか」が、このデータからわかるわけです。

――自分が話している時の表情が、こうして数値で表されるのは面白いですね。もう一つの分析項目「発話量」についてはどのような観点から分析したのですか?
春本:1on1面談においては、「上司が喋りすぎてしまっていないか」や「部下の話に耳を傾けられているか」が重要なポイントです。
その一方で、喋りすぎかどうかの判断は個人の感覚によって異なりますし、本人は認識しにくいところ。それが数値として可視化されることで、明確に自己認識できます。
こうして表情と発話量をデータ化し、DM(District Manager:地区拠点長)自身が自分の面談を振り返る材料を提供しました。
また、個人ごとの特徴はもちろん、事業部ごとの特徴や分布、他社の特徴も提示いただき、比較することでより関心を持ってもらえたと思っています。こういった知見を得られることもアイムビサイドユーさんにお願いしてよかったと思っている点です。
対象者の9割が利用。MR活動の要「製品説明」ロールプレイへも展開
――気になるのは利用率や反応ですが、いかがでしたか?
春本:実を言うと、スタート当初は利用率があまり伸びなかったんですよ。
利用率を高めるべく、仕様書をきちんと作る、口頭でも使い方を説明する、活用してくれているマネージャーにインタビューして共有する。そうやって利用価値を丁寧に伝えていきながら、最終的には対象となる役職者の9割に活用してもらいました。
頻繁に利用してくれる方も複数名いて、なかには1on1面談に留まらず、ロールプレイも解析してみたいと考えてくれたマネージャーも。
そのマネージャーからの依頼を受け、ロールプレイの解析も実施できました。
――ロールプレイですか?
春本:はい。MRは、医師や薬剤師などの医療関係者に対し自社の医薬品の情報を伝えるのが重要な役割ですから、製品ごとにロールプレイを実施してから現場へ向かいます。
MRとドクター役でロールプレイを行い、上司がフィードバックすることでMRメンバーのスキル向上を図っています。
スキルの中でも特に、相手の「感情のうねりをつくる」というセリングスキルが重要です。
上司の視点では、長年の経験から感情の動きを感じ取れるので「これは良い面談(ロールプレイ)だ」とわかるのですが、それはあくまでも感覚値なんです。
私や細田の実体験からも、可能であればロールプレイにも展開したいという構想があったので、これは嬉しいプラスアルファの検証になりました。
――ロールプレイを解析してみていかがでしたか?
春本:ロールプレイでは主に「発言率」「発言長」を解析したのですが、「I'mbesideyou」によって、今まで感覚だったものが数値としてきちんと現れました。
今回解析したロールプレイについては全て見させていただきましたが、感覚的に良いロールプレイと数値的に良いロールプレイが一致していたこともわかったので、今後導入すればフィードバックの一助になるのではないかという期待が膨らみました。
細田:春本が言うように、ロールプレイのフィードバックというのはすごく難しいんです。
なぜなら、そのフィードバックが感覚値であるのはもちろんのこと、ロールプレイを実施している本人たちは、真剣に取り組んでいるゆえに詳細を覚えてないからです。
覚えていないものに対してフィードバックするのはなかなか困難です。しかし、今回のように動画解析を行うことで、動画を確認しながら感覚と数値をあわせてフィードバックしていける。両面からのアプローチによりロールプレイの精度が上がっていくものと思います。

神谷:そうした部分を、「I'mbesideyou」によって定量化したり客観性を持たせたりしてサポートできたのは、チャレンジングでしたが今後につながる取り組みだったと感じています。
MR領域にラーニングイノベーションを。アストラゼネカが踏み出す第一歩
――2022年3月をもってプロジェクトは完了されていますが、改めて全体を振り返ってみていかがでしょうか。
春本:プロジェクト終了後に社内アンケートを実施したのですが、「自身の面談を分析することで気づきや変化があった」と答えた人が約70%、改善点や課題が解決し、場面に応じた活用も含めると今後使ってみたいと答えた人が約80%ポジティブな成果を得られたことは、大きな収穫です。
細田:MRを取りまとめるマネージャーだけではなく、さらにその上位レイヤーのマネージャー陣も、本プロジェクトをきっかけに面談を改善する必要性や可能性に気付くという成果もありました。
「マネージャーたちにコーチングを学ばせてほしい」という声も出てきています。
このプロジェクトが、メンバー間のコミュニケーション全体にいい影響を及ぼしている証拠ではないでしょうか。
神谷:ポジティブな反応をいただけているのは、私たちとしても非常に嬉しいです。
今回一緒にプロジェクトを推進してみて驚いたのは、アストラゼネカ社の熱量の高さ。
出会う方々みなさんのコミットメントが高く、プロジェクト期間の6ヶ月間、最後まで熱量が落ちなかった。そうしたプロジェクトの進み方はなかなか見たことがないですから、感動に近いものがありました。
私たちは、すべての⼈がお互いにリスペクトし学びあう社会、心が健康でいられる世界の実現を⽬指して、オンラインコミュニケーションの動画解析を提供していますが、それは、ツールを活用する立場からすると「手段」のひとつです。
それをきちんと「目的」に昇華する。そのための視座を今回のプロジェクトから多くいただけたと感じています。
――両社にとって実りのあるプロジェクトだったのですね。今回の成果が次にどうつながっていくのか、アストラゼネカ社の今後の展望を聞かせてください。
細田:今回の検証によって、可能性が見えてきたと同時に課題が見えてきたので、プロジェクト完了後も継続してアイムビサイドユーさんに相談させてもらっているところです。
コロナ禍において人材開発・育成領域にも変革が求められてきましたが、イノベーティブな要素が少ないと感じていました。
また、1no1面談や医療関係者との面談は、内容がブラックボックス化しやすいものです。ゆえに、課題があったとしても顕在化しにくい状況でもありました。
そうしたなか今回のプロジェクトは、再現性を出すのが難しいコミュニケーション領域をデータ化して分析するという新しさに加え、そのデータをいかにケイパビリティ向上に繋げるかと考える機会になり、育成のあり方を見直すきっかけをいただいたと思っています。
私たちチームの原点に戻ると、MRのケイパビリティ向上の目的は、「疾患で困っている患者さんのために、製品をしっかり届けること」にあります。
それを達成するため、今後もアイムビサイドユーさんのテクノロジーと豊富な知見を借りながら、歩んでいきたいと思っています。
――アイムビサイドユー社にとってi2.JPへの参画はどんなものになりましたか?
神谷:私たちはコロナ禍に創業し、現在はインドやアメリカをはじめ、世界各国で取り組みを進めています。
そうしたなかで感じるのは、アストラゼネカさんの圧倒的なブランド力。なぜなら、グローバル市場でアストラゼネカさんの名を知らない人はいないからです。
今回のプロジェクトの中で得られた経験が次に生かされているのはもちろんなのですが、アストラゼネカ社とプロジェクト推進できたという実績は、私たちスタートアップ企業にとって非常に大きなインパクトがあり、いまの私たちを後押ししてくれていると感じます。
せっかくi2.JPという場で素晴らしいコラボレーションの機会をいただけたので、今後も新たなコラボレーションがこのi2.JPを通して生まれると嬉しいですね。
――最後に、i2.JP参画検討中の企業・団体へ一言メッセージをいただけると嬉しいです。
神谷:グローバル市場でも知名度が高いアストラゼネカさんとの協業実績は大きなアドバンテージになると思います。
私たちはメンタルヘルス領域でソリューションを提供していますので、みなさんとも協業できる機会があればうれしいです!
i2.JPにはビジネスマッチングの機会はもちろん、ディスカッションの機会もある。「患者中心」の実現に向けて、ともに議論を行い、道筋を描きたいという強い志を持つ企業・団体は、お問い合わせください。


- 神谷 渉三(Shozo Kamiya)
- 株式会社I'mbesideyou 代表取締役社長
一人ひとりの個性を認め合う社会の実現を目指し、2020年にI'mbesideyouを創業。オンラインコミュニケーション動画解析に特化した独自のAI解析技術の特許出願数は120件以上。累計動画分析時間数はわずか2年で30万時間を超える。

- 細田 征一(Seiichi Hosoda)
- アストラゼネカ株式会社 コマーシャルエクセレンス本部セールス・アカデミー部 部長
コマーシャルエクセレンス本部にて、計4部門を統括。社員約2000名を対象に人材育成のための研修の企画、戦略立案、実施の責任者を務める。

- 春本 洋佑(Yosuke Harumoto)
- アストラゼネカ株式会社 コマーシャルエクセレンス本部 セールス・アカデミー部 オンコロジー事業本部担当コマーシャル・ケーパビリティ・リード マネージャー
コマーシャルエクセレンス本部内にてオンコロジー事業本部を対象に、製品研修、疾患研修、スキル研修の戦略立案および実施を担っている。
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