AstraZeneca x Osaka Innovation Hub
コラボ事例
コニカミノルタ株式会社

コニカミノルタ株式会社 x AZ
前立腺がん術後患者さんへの新たなソリューション開拓に挑む!

前立腺がん術後患者さんを尿臭の悩みから救いたい——ペイシェント・セントリックな視点で挑む、新たなソリューション開拓

いま、日本人の2人に1人はがんを経験すると言われており、がんは私たちにとって非常に身近な病気です。その中で、男性におけるがん罹患数でもっとも多いのが、前立腺がんです。前立腺がんにはいくつかの治療法がありますが、手術を受けることで尿失禁を患われる患者さんもおられます。*1

尿失禁の症状や、そこから発せられる尿臭に悩みを抱える患者さんも中にはいらっしゃると考え、そうした患者さんを救うために、アストラゼネカは、世界初のニオイ嗅ぎ分け技術を有するコニカミノルタ株式会社(以下、コニカミノルタ)とともに、新たなソリューション提供に向けたプロジェクトを実施しました。

今回の両社の取り組みについて、コニカミノルタ ビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC-Japan) インキュベーション リードの秋山 博氏と、アストラゼネカ i2.JP Director の劉 雷氏にお話を伺いました。

プロジェクト事例

概要
  • ニオイ嗅ぎ分け技術により、ニオイを定量化・可視化するプロダクト「Kunkun body(クンクンボディ)」を用いた、前立腺がん術後患者の、尿臭への不安改善およびQOL向上に向けた検証プログラム
背景/課題
  • がん治療によって約60%の方が外見に関わる変化を体験し、それによって約40%の方が日常生活においてネガティブな影響を経験*2
  • 前立腺がん患者さんにおいても治療後の生活にはさまざまな影響があり、尿失禁による「尿臭漏れ」に不安を感じられる方が少なからずいらっしゃると推測
検証結果
  • 尿失禁・尿臭漏れに悩む方は前立腺がん術後患者さんのみならず、女性にも多かった
  • 実際には尿漏れしていてもニオイ漏れが生じている可能性は低く、ソリューション選定に課題があった
  • 尿失禁を患う方にはニオイ漏れへの不安感があり、それを払拭したいというニーズは確かにあった

「ニオイ嗅ぎ分け技術」で、目に見えないニオイへの不安を解消したい

――はじめに、アストラゼネカ社とアイムビサイドユー社でどのような取り組みをされたのか、プロジェクトの概要を聞かせてください。

劉 雷(以下、劉):今回コニカミノルタさんと取り組んだのは、前立腺がん術後患者さんが患う尿失禁による「尿臭の漏れ」への不安改善および、QOL向上に向けた検証プログラムです。

――この取り組みには、どのような背景があったのでしょうか?

劉 :当社では、患者さんを中心に据えた「ペイシェント・セントリック」な考え方のもと、ペイシェント・ジャーニーを描きながら患者さんの困りごとを洗い出すワークショップを、疾患領域ごとに社内の関係部門で定期的に開催しています。2020年初頭にメディカル部門が主体となり、さまざまながんの患者さんに対した理解を深めるワークショップが実施されました。

その中で、がん治療に伴う患者さんの変化について深く知る機会があり、治療後には治療前と同じような生活ができなくなるなど、QOLが大きく左右されることを改めて認識しました。

事実、がん治療は約60%の方に外見に関わる変化をもたらし、それによって約40%の方に日常生活においてネガティブな影響を与えていたという調査データ*2があります。

さらにワークショップ内では疾患ごとにペインポイントを洗い出しました。その中で、前立腺がん領域においては、手術後に尿失禁を患われる方もおられる事を初めて知ったんです。

日本国内の前立腺がん患者数は年間約9万人*3、手術を受けられる方が約2万人。ある調査結果から試算すると、うち手術後3ヶ月以内に失禁症状を示した方は約1万5千人、継続的に尿失禁の症状を患う方が約1千人いらっしゃる可能性があります*1

実は私の身近にも尿失禁を患われ、その症状による尿臭漏れを心配されている方がいました。そうした方々の悩みを解決できるソリューションはないだろうか…と探索を始めたのが、この検証プログラムのスタートでした。

そうして探索の末に辿り着いたのが、コニカミノルタさんの「Kunkun body」です。

——「Kunkun body」はどのようなプロダクトなのでしょうか?

秋山 博(以下、秋山):「Kunkun body」は、AIとセンサーを用いて簡単にニオイを定量化し、専用のアプリケーションでニオイの種類と強さを可視化できるプロダクトです。「Kunkun body」本体をニオイの気になる箇所に近づけることで、体重や体温を測るように、汗臭、ミドル脂臭、加齢臭を計測できます。

2018年より「Kunkun body」を販売し、2022年9月末をもって個人向けサービスの提供を終了していますが、現在は「Kunkun X(クンクンエックス)」として法人向けにニオイ嗅ぎ分けに関する研究開発・事業を展開しています。

——アストラゼネカ社から相談があった時、どのような印象を持ちましたか?

秋山:みなさんご存知のように、体臭や口臭などのニオイは、さまざまな病気のサインであることがわかっています。例えば、糖尿病であればアセトン臭、腎臓病の場合はアンモニア臭がすると言われています。

「Kunkun body」は身だしなみの一環としてエチケット路線のプロダクトとして販売をスタートさせましたが、将来的には健康状態をチェックできるような医療領域への展開も視野に入れていました。

そうした構想があった中でのお声がけでしたし、当社のビジネスイノベーションセンター(BIC)という組織には、お客様の「ニーズ」を軸に新規事業を展開するというフィロソフィーがあります。

患者さんの悩みを解決したいという想いは、我々のフィロソフィーと強く共鳴する部分でしたので、すぐにプロジェクトをスタートさせてもらいました。

前立腺がん術後患者さんだけじゃない。ニオイへの不安から解放されたいと願う声

――プロジェクトはどのような流れで進めたのでしょうか?

劉:尿臭に不安を抱える方が「Kunkun body」のニオイセンサー(尿臭検知器)を活用することで、自身でニオイを検知できるとともに不安を解消できるのではないか。この仮説のもと、まずは市場調査を行い、次に実験を行うという流れでプロジェクトを進めました。

お互いの得意分野で役割分担し、当社は医療側の知識を提供するとともに、患者調査を実施。患者さんのペインポイントや、どれだけ困っているのかを明らかにするところから始めました。

そして、患者調査で有用性や可能性が確認できたのち、コニカミノルタさん側で、尿臭を検出する実験やデバイスのプロトタイプ開発を進めていくという流れです。

――ではまず、患者調査について聞かせてください。どのような調査を行ったのでしょうか?

劉:患者調査は、今回のプロジェクトが患者さんのニーズに応え得るものであるかの初期的な判断を行うことを目的に実施しました。

調査対象は、尿失禁を患う方の中から、実際に尿失禁によるニオイの問題を抱えている方、さほどニオイの問題はないが本人がニオイを気にしている方、尿臭検知器があれば使ってみたいと思う方をフィルタリングし、10名の方に1on1のインタビューを行いました。

秋山:ニーズ把握においては、生活者のバックグランド、ライフスタイル、尿失禁にまつわる体験やペインポイントを理解するという心理的ニーズだけでなく、その先のプロトタイプ開発を見据え、尿臭検知器に対する機能的ニーズのヒアリングもしていただきました。

「Kunkun body」そのままでは実用化は難しいと想定していたので、外せない機能や不要な機能、改善ポイントなども、質問の中に盛り込んでもらいましたね。

劉:実は、尿失禁に困っているのは前立腺がん術後患者さんだけではありません。それ以外の層、例えば女性で経験されている方も多くおられることが知られています*4

そのため、市場の将来的な広がりと、男女の身体的性差および病気の有無でどう違いがあるのかも確認するため、7名の前立腺癌の術後患者さん、3名の女性に、実際の声を聞かせてもらいました。

――具体的にはどのような声がありましたか?

劉:まず前立腺がん術後患者さんにおいては、ライフスタイルの違いで大きく2パターンの声がありました。

すでに引退され自宅で過ごす時間がほとんどという方の場合は、尿失禁してしまっても、尿臭を検知する必要性があまりないという回答。
その一方で、まだ社会生活を送っていたり、外出機会が多い方々の場合は、外出の際は頻繁にトイレに行き、尿漏れしていないか確認しているそうです。

中には、頻繁にトイレに行くという行為自体が相手に迷惑をかけてしまっているのではないかと、気にしている方もいらっしゃいました。

女性の声で特に印象に残っているのは、出勤して仕事をされている方のお話です。
尿漏れについては日頃から気にかけていて、特に冬場は不安感が強いとのこと。
というのも、足元が冷えないよう膝掛けをしながら仕事しており、席を立つため膝掛けを取った時に立ち込める蒸気に、尿臭がしないかいつも心配しているそうです。
また、そのニオイがくさいかどうか、自分で判断する自信がないとおっしゃっていました。

――実際に尿臭に不安を抱えながら生活されているんですね。

劉:そうですね。「尿の匂いが周囲に漏れる」「尿の匂いが周囲に漏れていないか気になってしまう」などを尿失禁の困りごととして抱えていらっしゃる方もおられました。尿失禁に関しては、性差や病気の有無というのは関係なく、一定の共通した課題意識があるというのが、今回の調査の結論でした。

加えてもう一つ明らかになったのは、自分で尿漏れを認識し、能動的に尿臭を計測することは難しかったということです。なぜなら、実は「自分では尿もれしていることに気づかない」という状態の方が多かったのです。

そうした声を鑑みると、不安解消のためには、常時計測できるようにする必要があることも、今回の調査でわかりました。

――機能的にはどのようなニーズがありましたか?

秋山:すでに「Kunkun body」の実機があったことで、その本体をベースに、さまざまな意見をいただくことができました。

例えば、本体の大きさは人の目につきにくい小型なものでこっそり測れるものがいい、測定時間はできる限り短い方がいいなど、製品側にフィードバックできる情報を多く得られました。

その中には開発者側では想像できなかった部分もありました。

私たちの当初の想定は、ニオイレベルを大・中・小のようにおおよそ3段階くらいで測れればいいのではないかと考えていたのですが、実際には「周囲の人にどう感じられるかを知りたい」というように、他人との関係性の中に課題観を感じていて、そこに安心感が欲しいと願っているのがよく理解できました。

想定外の実験結果。ニオイ漏れは確認できず

――そうした声を元に行った尿臭検出の実験はいかがでしたか?

秋山:実は、尿臭検出の実験を行ってみて想定外な事実が判明しました。それは、尿臭の漏れがほとんどなかったということです。

――どういうことでしょうか?

秋山:尿失禁を患っている方というのは基本、オムツや尿漏れパッドを着用して、その上からズボンやスカートを履くという状態で生活されています。実験においても、そうした一般的な生活状況にできる限り近づけ、尿臭を計測できるかを検証しました。そうしてみると、意外にも尿臭が外に漏れていなかったんです。

というのも、近年はオムツやパッドの性能がどんどん向上しています。素材の工夫や消臭機能などが効果的に働き、ニオイの漏れはほとんど確認できませんでした。

もちろん、尿の排出量がある一定量を超えてしまえば、必然的にニオイも外に出てしまうことはありますが、そうした状況は非常に稀。インタビューさせていただいた方々が気にされるレベルを再現した実験においては、尿臭は外に漏れていないことが明らかになりました。

――なるほど。尿失禁を患う方は尿臭の漏れを非常に心配しているけれど、実際には、ニオイが漏れていない可能性が高かったということですね。

秋山:その通りです。その実験結果を受け、改めてインタビューを見返してみると、「不安があるから自分の尿臭を測りたい」というニーズは確かにあったのですが、実際に想定されるシチュエーションにおいて「尿臭がする」と周囲の人に指摘された事例はほぼありませんでした。

その事実と実験の結果を合わせて考えると、実際は尿臭が外に漏れていない可能性が高いというのが、もっとも有力な仮説です。

それらを踏まえ、改めて両社で議論しました。

仮に、センサーによって常時計測や微量検出を可能にしたとしても、本人の近くで測ったニオイレベルと、少し離れた人が感じるニオイレベルは異なります。インタビューした方々のニーズに合わせようと思うと、ニオイを確保するポイントが非常に難しい。

現時点では、ニオイ嗅ぎ分け技術を活用したソリューション構築は難しいという結論に至りました。

劉:このままの状態で製品開発したとしても、ニオイを計測して不安を解消できるデバイスではなく、ユーザーさんにとってはただの「お守り」にしかならないのではないかと。

お守りのようなプロダクトでは患者さんの悩みを本当の意味で解消できず、本来の目的からはずれてしまうので、本プロジェクトは患者さんのペインポイントの特定をしたというところで一旦終了としています。

患者さんの課題やニーズに徹底的に寄り添うチャレンジをし続ける

――いま改めてプロジェクトを振り返ってみていかがでしょうか?

劉:改めてペイシェント・ジャーニーを考えた時、ニオイセンサーを活用して尿臭を検知して不安解消するという仮説には、もうひとひねり必要だったと認識しています。

一方で、市場調査と技術的検討の両方を踏まえないことには得られなかった知見ですから、実際にプロジェクトを推進して非常に良かったと思っています。

当社内では、マーケティングやメディカルチームをはじめとして、関係各所に実際の患者さんの声や検証結果を共有していて、また新たなチャレンジをして欲しいと要望をもらっています。

加えてi2.JPとしては、今回のプロジェクトで得られた学びをもとに、オムツや尿漏れパッド等を扱う日用品メーカーとのコラボレーションの可能性を議論していたり、海外スタートアップには尿漏れ自体のセンサーをオムツに埋め込むプロダクト開発をしている企業もあるので、そこへの打診を検討していたりと、別のアプローチを検討しているところです。

秋山:我々も今回初めて尿臭に対してアプローチし、市場調査と実験を通して尿の特性や課題を理解できました。せっかくここで得られた知見ですから、別の分野へ活かしていきたいと考えています。

例えば、介護施設においては、オムツ交換を尿臭検出によって適切なタイミングで行えるようにしたいという声をいただいています。世の中のニーズと我々が提供できる技術がうまくマッチするところで、新たな道に進んでいく予定です。

――患者さんのペインポイントを特定したことは、着実に次に繋がっているのですね。

秋山:はい。あと今回プロジェクトに参画してみて、別々の専門を持つ者同士がタッグを組むのは、すごく意味のあることだと改めて実感しました。

我々は技術や開発というのは得意領域ですが、医療業界における知見はありませんし、患者さんの心理やペインにはなかなか馴染みがありません。イノベーションのために一緒に取り組める相手がアストラゼネカさんでよかったなと思っています。

劉:それは我々も同じです。医療機器について何か検討したいとなっても、自力では検討することすら難しいなかで、別の専門領域を持つパートナーがいて、すぐに相談できるのは心強いです。

コニカミノルタさんは医療機器メーカーでもありますから、実際に、今回のプロジェクト以外でも何度も相談させてもらっています。今回できた繋がりをきっかけに、また新たな挑戦ができるといいですよね。

患者さんのニーズに寄与し得るようなソリューションを、今後も一緒に継続して検討していきたいと思っています。

秋山:そうですね。アイデアベースからディスカッションができて、しかも違う分野の専門家と議論し協業できる場というのは、なかなかないと思います。異なる知見を持ち寄ることで発想が広がりますし、新しい道が見つかっていきますから、引き続きイノベーションへのチャレンジを続けていきたいですね。

i2.JPにはビジネスマッチングの機会はもちろん、ディスカッションの機会もある。「患者中心」の実現に向けて、ともに議論を行い、道筋を描きたいという強い志を持つ企業・団体は、お問い合わせください。

神谷 渉三(Shouzou Kamiya)
秋山 博(Hiroshi Akiyama)
コニカミノルタ株式会社 ビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC-Japan)イノベーションリード

半導体大手メーカーにて、製品企画・ビジネス戦略立案、顧客プロモーション活動など多岐にわたる業務を経験したのち、コニカミノルタの新規事業専門組織BICへ。「Kunkun body」発案者でありプロジェクトリーダーおよび開発責任者

細田 征一(Seiichi Hosoda)
劉 雷(Lei Liu)
アストラゼネカ株式会社 Innovation Partnerships & i2.JP Director

GEヘルスケア・ジャパンにて医療機器の研究開発に従事した後、コンサルティング、スタートアップ、生命保険会社などを経てアストラゼネカへ。オープンイノベーション・ネットワーク「Innovation Infusion Japan (i2.JP)」をリード

お問い合わせ

私たちと
一緒にはじめませんか

お問い合わせのご利用にあたっては、
プライバシーポリシーをご確認ください。

お問い合わせいただき
ありがとうございます。
内容確認後、
担当者よりご連絡いたします。