コラボ事例
JTB×AZ(前編)

未受診率・未診断率が高いCOPD
リスクを持つ人に対してCOPDの認知を高めて受診を促すため
タクシー会社での啓発活動を展開

※コラボ事例の後編はこちらから

COPDは主に長年の喫煙習慣により生じる肺の生活習慣病です。慢性・進行性の疾患で、進行すると少しの動作で息切れするなど、日常生活に影響を及ぼすようになる可能性があり1、早期診断・治療が求められています。しかし、COPDは未受診率・未診断率が高く、推定有病患者数が約530万人とされる中2、治療を受けているCOPD総患者数は約36.2万人と報告されています3
COPDの疾患、また早期受診の重要性を知っていただく啓発活動の一環としてJTBとアストラゼネカはタクシー乗務員を対象にしたCOPDの疾患啓発プロジェクトを実施しました。

両社の取り組みについて、株式会社JTB 西日本MICE事業部 アライアンスマーケティングチームの新家 清行氏とアストラゼネカ株式会社の大古場 知子氏、石口 麻衣子氏にお話を伺いました。前編では、コラボの背景やパイロットプロジェクトについてご紹介します。

プロジェクト事例

概要
  • 日本交通株式会社のタクシー乗務員を対象にした疾患啓発プロジェクトを展開
  • 事前にチェック項目でスクリーニングを行いCOPDの可能性がある人を抽出、その方たちに対して疾患啓発セミナーを実施
  • セミナー前後のアンケートを通して受診意向の変化や行動変容を検証
  • パイロットプロジェクトとして赤羽営業所の乗務員約600人を対象に行った後、全社展開(日本交通グループの乗務員約5,300名が対象)
背景/課題
  • COPDは認知度が低く、未受診率・未診断率が高いことが長年の課題
  • 市民公開講座、テレビCM、新聞記事広告などの手法だけでは、COPDのリスクを持ちながらもリスクに気づいていない方々に十分には情報が届きにくい
検証結果
  • 事前・事後アンケートの結果を分析、受診意向がある人は35.0%、受診した人は7.9%(うちCOPDと診断された人は60.4%)、健康意識が高まった人は48.0%、禁煙・減煙した人は43.4%という結果が得られた4

事前アンケートでリスクのある人を抽出
2段階の事後アンケートで意識変容、行動変容を追う

――まずプロジェクトの背景を教えてください。

大古場:COPD(慢性閉塞性肺疾患)は疾患認知度が低く、COPDのリスクを持ちながらもリスクに気づいておらず、未受診・未診断である人が多いことが従来から課題となっています。アストラゼネカを含め、さまざまな製薬企業がCOPDの啓発に継続的に取り組んでおり、一般向けの市民公開講座、テレビCMなども行われてきましたが、残念ながら認知度は低いままです。
私自身、数年この疾患のマーケティングに関わってきて、リスクのある方に対してなかなか情報を届けられないことは悩みの種でした。「COPDのリスクがある患者さんが病院に来ない」という先生方の声も私たちに届いています。COPDのリスクのある方々に対してCOPDについて知ってもらうとともに受診を促すような方法はないか模索してきたので、JTBさんからタクシー乗務員の方々にターゲットをしぼった啓発活動というご提案を受け、ぜひやってみたいと思いました。

インタビュー写真

――JTBさんがCOPDに着目されたきっかけは?

新家:直接のきっかけは、i2.JPの「チャレンジ公募」で、アストラゼネカさんが「COPD患者の早期治療介入の実現」を挙げていたことです。当時、当社では実務以外の部分でパートナー企業に対し価値提供をしようと、アライアンスマーケティングを強化しており、ヘルスケアのプロジェクトも検討しているところでした。アストラゼネカさんとCOPDについてディスカッションする中で「COPDの潜在患者に直接アプローチする」という課題が見え、JTBのパートナー企業である交通事業者とアストラゼネカさんをJTBがつなぐというアイデアが生まれてきました。

大古場:製薬企業が直接コミュニケーションするのは主に医師なので、医師を通して患者さんにアプローチすることはできても、病院に来ない人には手が届きづらい課題があります。特にCOPDは未受診の方が多いので、一般企業で働く方々に啓発を行うというアイデアは課題にマッチしたものでした。

新家:ドライバー職は喫煙率が高いといわれていることもあり、我々がコミュニケーションをとりやすいタクシー業界での啓発活動をご提案しました。今回、プロジェクトを実施してくださった日本交通さんはウェルネス経営宣言のもと、CWO(Chief Wellness Officer)制度を導入するなど、全社横断的な健康増進施策を積極的に推進されています。我々としても初めての取り組みなので、やはり健康意識が高い企業でないと難しいのではと考え、日本交通さんにご相談しました。

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――プロジェクトの概要、工夫した点を教えてください。

石口:パイロットプロジェクトとして、2022年8月に日本交通赤羽営業所にてセミナーを開催しました。セミナーは呼吸器内科専門医による講演30分、Q&A10分の構成で、講演の内容はCOPDがどのような疾患か、リスクがある場合の受診の重要性、どんな治療があるかなどです。
ポイントは、リスクのある方々にCOPDの問題を“自分事”として捉えてもらうこと、実際に受診する意識をもってもらうことの2つで、意識変容や行動変容を追うためのアンケートの設計はチャレンジングだったと思います。

新家:リスクのある方にアプローチできるように、事前アンケートの中にCOPD-PS(COPDのスクリーニング質問票)を入れ、COPDのリスクがある方を抽出し、その方々を中心にセミナーの案内をしていく仕組みにしました。
事後のアンケートについては、目標をどこに置くかが問題でした。知ってもらうことが目標なのか? 意識変容、行動変容まで目指すのか? どのようにして意識変容、行動変容を追うのか? アンケートの内容を作り込むのに何度も話し合いをしましたね。

石口:知ってもらって終わりではなく、意識変容、行動変容を目標に据えると決め、事後のアンケートを受講直後と約1カ月後の2つに分けました。受講後にはセミナーについての理解度や受診意向などを、1カ月後には受診の有無や受診しない理由などを尋ねる内容になっています。COPDと関連の深いタバコに関する設問なども盛り込みました。

――そのほかに工夫したことはありますか?

石口:セミナーの参加率を上げるため、新家さん、当時日本交通赤羽営業所の担当者であった大内 稔さんとさまざまな要素を検討しました。例えば開催日時も、乗務員さんの勤務形態は不規則なので、どの曜日・時間帯が参加しやすいのか大内さんにご相談しながら決めていきました。
大内さんはポスターを貼り出したり、対象の方に何度も声掛けをしたり、アンケートの協力を呼び掛けたり、積極的に活動してくださいました。そのおかげで参加率が高まったと思います。事前アンケート回答者551人のうちセミナー対象者は120人、そのうち96人が受講されていますので、参加率は8割を超えています。

大古場:一般の市民公開講座と違って、今回は会社から「このセミナーを受けましょう」と勧められるので、ガバナンスのような力が働くのではないかという期待がありました。ただ、会社が推進していますというだけでは弱いのではないかとも思っていました。担当者が個別に参加を呼び掛けたりすることでガバナンスがより強く働き、参加率が上がるという仮説を立てていたので、それを裏付けるような結果になったと思います。

新家:先ほどお話したように、経営層は健康経営への意識が高いのですが、経営層と現場の方の意識に差があることもよくあります。モチベーションを持って進めてくださった大内さんの力はとても大きかったと思います。

喫煙者の約6割が禁煙・減煙
健康意識の高まりも見られ、健康施策として高く評価された

――セミナーの評価は?

石口:受講後アンケートで、セミナーの内容について「よく理解できた」「やや理解できた」が95.8%に上りました。実際、とても熱心に聞いてくださったと思います4

新家:質問がたくさん出ていましたよね。

石口:タバコについての質問が多かったです。「禁煙をしてから数十年たつが、COPDの症状はどうなるのか」「副流煙で家族もCOPDになるのか」「紙タバコと電子タバコで違いはあるのか」などです。「(今回のようなセミナーを)もっと若いときに受けたかった」「(今回のようなセミナーを)若い人にどんどん受けさせたい」といった感想も寄せられました。

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――パイロットの後、2022年9月より全社展開を行っています。

新家:赤羽営業所所長の仲 進さんが執行役員でもあり、仲さんのご尽力もあって、全社展開はCWO主導で進めていただけることになりました。

大古場:パイロットプロジェクトに関しては、1カ月後のアンケートで「受診した」という人は2.5%にとどまりましたが、喫煙者のうち59.0%が禁煙・減煙をしていました。「健康への関心」も調べていて、事前に「どちらともいえない」「関心がない」と答えた人のうち「関心がある」に転じた人が54.5%という結果も出ています。日本交通さんとしては本プロジェクトを健康施策の一環として行っていただいていますので、健康意識の高まりや禁煙・減煙という行動変容が高く評価されたのではないかと思います4

――コラボのメリットを感じた点はありますか?

大古場:製薬業界にはいろいろな特有の業界ルールがあって、今回のセミナーに関しても日本交通さんに伝えるべき、製薬業界のルールによる細かな注意事項がありました。そのあたりを日本交通さんに説明するのが難しく、新家さんに説明の仕方まで一緒に考えてもらえたのはすごく助かりました。日本交通さんを交えた会議の前に「この表現でいいですか?」「これで意図は伝わりますか?」とたくさん相談させてもらいました。

石口:私たちは普段、啓発活動において一般の企業の方と直接お話しすることがありません。日本交通さんにとっても製薬企業とのやりとりは慣れていませんから、JTBさんという緩衝材がなければ、たぶんコミュニケーションのずれが生じて、うまく回らなかっただろうと思います。JTBさんがいてくれたことで、お互い安心してやりとりできました。

新家:私たちはタクシー業界と長年のお付き合いがありますし、セミナー実施、アンケート設計などのイベント運営の実務も得意な領域です。そこにアストラゼネカさんの専門性がうまく掛け合わされたのではないでしょうか。それぞれの強みを生かすコラボになったと思います。

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