データを活用したアプローチで
慢性腎臓病(CKD)リスクのある方の行動変容を目指す
CKDの早期発見・早期治療のために―健診・レセプトデータを使い、個別的なアプローチで行動変容を促すモデルを構築
慢性腎臓病(CKD)は国内の推定患者数1,330万人、成人の8人に1人がかかる国民病と言われています1。進行すると透析療法が必要になる可能性があり、早期発見・治療が重要ですが、初期のステージでは自覚症状がなく、進行してから気づくことがめずらしくありません。
そこで、アストラゼネカと医療データ解析や生活習慣病の重症化予防支援を行うPREVENTはCKDの疾患啓発プロジェクトを実施しました。
両社の取り組みについて、PREVENT事業企画部の竹山 健人氏とアストラゼネカ i2.JP Director の劉 雷氏にお話を伺いました。前編では、コラボのきっかけやプロジェクトの特徴についてご紹介します。
プロジェクト事例
- 概要
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- 健康保険組合(以下、健保組合)の健診・レセプトデータから、CKDリスク保有かつ未診断の人を対象に疾患啓発通知を送付
- 背景情報などのデータをもとに対象者のセグメント分けを行い、ナッジ理論2に基づいて各グループの特性に合わせ訴求ポイントをアレンジ
- 背景/課題
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- 進行すると透析療法が必要になる可能性があるCKDは早期発見が課題
- 健保組合の保健指導は生活習慣病が中心となり、その他の疾患まで対応できないこともある
- 検証結果
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- データを活用してアウトカムとコントロール群を設定・評価、対象740名のうち42%(コントロール群の約150%)に行動変容が起きたという結果が得られた
社会的課題も大きいCKD、疾患啓発には健保組合側のニーズもある
―― 「CKDの疾患啓発」をテーマにコラボが生まれたきっかけを教えてください。
竹山 健人(以下、竹山):PREVENTでは、2021年10月にi2.JPに参画する前から、CKDの疾患啓発というアイデアを持っていました。アストラゼネカさんがここ数年CKDにおいてさまざまな活動を積極的に展開しておられることを知っていましたので、参画の際、疾患啓発プログラムをご提案したところ、「ぜひやりましょう!」と年内に合意して2022年4月にPoC(Proof of Concept)スタート、とてもスピーディに進みましたね。
劉 雷(以下、劉):アストラゼネカではCKDの疾患啓発に注力しており、一般向けにテレビCMや市民公開講座などの活動を行っていますが、未病・未診断の方一人ひとりにアプローチする手立てがないことが大きな課題でした。PREVENTさんのご提案は、健診・レセプトデータを活用することで、リスクがあるのに未受診の人たちに啓発できる点が我々の課題にマッチしていました。健保組合様とも協力して三者で進めていける点も魅力的でしたね。
―― なぜCKDなのでしょうか?
劉:まず社会的課題として、CKDは進行すると人工透析につながる可能性があることが挙げられます。日本は100万人当たりの透析患者数が世界第2位3 、直接的な医療コストは年間総額1.57兆円(推計)4 に上り、人工透析治療による患者さん本人の就業への影響やQoLの低下など、間接的なインパクトも考えられます。しかもCKDは今後さらに増えることが予想されています。
一方で個々の患者さんを考えたとき、自覚症状に乏しく、自覚症状が出始めたときには病気が進んでしまっている場合も少なくないため、アストラゼネカとしても疾患啓発に取り組んでいるところです。
竹山:PREVENTは健保組合様向けに医療データ解析や健康支援のサービスを展開しています。健保組合 の方とお話しする中で、生活習慣病の啓発や指導はよく行われているが、CKDの受診勧奨は健保組合様にとって「意義が高いとわかっているが、リソースもノウハウも足りず手つかずになっている」ことが課題として見えてきました。特に現場の保健師さんたちのニーズは高いと思います。実際、本プロジェクトへの参加を健保組合様にお声掛けしたところ、すぐに3つの保険者さんが「またとない機会だ」と快諾してくださいました。
対象者のインサイトを深め、ナッジ理論を散りばめた資材を作成
医師への疾患啓発も視野に
―― プロジェクトの概要、特徴を教えてください。
竹山:特徴は「データ駆動型個別化受診勧奨」です。一般的な受診勧奨はリソースの問題もあって、対象者全員に同じ内容の通知を送ります。対象者に合わせて個別化したほうが高い効果が期待できますが、百人百様の内容にするのは現実的ではありません。そこで、弊社の受診勧奨はデータを使って対象者をいくつかのグループに分け、個々のグループの特性に合わせて受診勧奨を行っています。
まず健診・レセプトデータから、CKDリスク保有かつ未診断の人を対象者として抽出する。次に対象者をグループ分けし、グループごとに特性を分析、特性に合わせて受診勧奨の資材を作成・送付する。最後に、レセプトデータを用いて対象者の行動変容を評価する。
劉:こだわりは「データドリブン」「データで検証」の2点です。データドリブンに対象者を選び、グループ分けしてインサイトを分析し、アプローチの内容を考え、アプローチ後の行動変容をデータで追い、効果を検証する。さらには、個人のペイシェントジャーニーもモニタリングする。我々がこれまでできなかった・やりたかったことが詰まっています。
竹山:健保組合様との共同事業として、健診・レセプトデータをもとにしたモデルを構築できたことが本プロジェクトの特徴であり、我々が関わった意義の一つだと思います。
●データ駆動型個別化受診勧奨
―― グループ分けはどのように?
竹山:専門医やアストラゼネカさんから知見をいただきつつ、「CKDのステージ」「生活習慣病の治療をしているか否か」「脂質、血圧、血糖の数値」「直近1年間の通院」などの情報から、7つのグループに分けました。ここで重視したのが、各グループの人たちの理解を深めることです。例えば「生活習慣病はすでに治療している人→シンプルに主治医に相談してくださいと伝えよう」「直近1年間で一度も病院に行っていない人→受診のハードルをぐっと下げる工夫が必要だな」というように、データからインサイトを分析しつつ、何を訴求すべきかを研ぎ澄ませていきました。
―― 疾患啓発の資材は7種類、作ったわけですね。
劉:はい。資材は工夫のかたまりです!従来の疾患啓発の課題は「見てもらえない」「行動に移してもらえない」こと。そこで、今回はナッジ理論を取り入れました。まずリスクを認識してもらう。いくつかの原因を理解してもらう。リスクを放置した場合のリスクも理解してもらう。最終的には受診という行動のハードルを引き下げて、自ら行動変容を起こしてもらう。グループ分けしたことで、ナッジ理論を資材に散りばめることができました。
竹山:先ほどお話ししたように、各グループのインサイト分析に時間をかけ、フォッグ行動モデル5を用いて各グループに対して何が一番響くのか訴求ポイントを整理し、最後に資材に落とし込んでいくというプロセスで進めました。デザインやキーフレーズを決めるのは後工程で、前工程がとても大切だったと思います。
●疾患啓発通知の資材のイメージ
劉:すべての資材に「この通知を受診時に持参してください」というメッセージを入れました。資材を使い患者さんを通して医師に情報を届けるためです。
これまでの調査などから、生活習慣病の治療中であっても、腎臓のリスクに気づいていないケースが少なからずあること、腎臓専門医と非専門医で腎臓のリスクの認識にギャップがあることがわかっています。我々も医師への情報提供活動を行っていますが、非専門医まで広く届けきれないので、患者さんから医師に情報を届け、医師にもCKDのリスクを認識してもらえれば、適切な検査・診断・治療の機会が増えていくだろう、と。実は、この仮説も検証されています。そういった意味でも収穫の多いプロジェクトになりました。
―― 難しかったことや不安要素はありましたか?
竹山:アストラゼネカさんと密に情報共有し、その都度アドバイスもいただきながら進めることができました。困ったこと、不安だったことは全くないですね。
劉:これまでにないぐらいスムーズに進んだプロジェクトでした!企画がしっかり作り込まれており、健保組合様の協力もスムーズに得られました。資材の中身も検証のスキームもよく、PREVENTさんのクオリティの高さが、とんとん拍子に進んだ大きな要因だと思います。
竹山:驚くほどのスピーディな展開で、本当にありがたかったです。保健事業はタイミングが大事で、実は春先の打診が一番うまくいきます。一歩遅れていたら、次年度の実施になったかもしれません。
劉:私は社内調整という点で“爆速”で進みすぎた気もしますが(笑)、これは絶対にやるべきプロジェクトだという気持ちがありました。実際、期待以上の結果も出ました。
こういった前例のないプロジェクトは、やってみなければわからないことがたくさんあります、躊躇せずPoCとして小さく始められるところから始め、学びを得ていくのがi2.JPのようなオープンイノベーションのあるべき姿で、魅力でもあると思います。
※掲載内容は当時のものです。所属等、現在とは異なる場合がございますのであらかじめご了承ください。
※プロジェクトの評価法や結果、その後の展開などを紹介した後編はこちらから!
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