CKDの進行を予防するために
―レセプトデータを用いて行動変容を追い、啓発通知の効果を数値で評価
後編では、今回のプロジェクトの評価法と結果、今後の展開、コラボの感想などをご紹介します。(前編はこちらから)
何をもって「受診」とするのか?
データを活用してアウトカムとコントロール群を設定
―― 行動変容の評価法について教えてください。
竹山 健人(以下、竹山):通知送付を0カ月目として通知送付後3カ月間のレセプトデータから「受診したか否か」を評価するのですが、何をもって「受診」とするのかが非常に難しいところでした。CKDは初診で診断がつくことがまずないからです。
そこで、我々が保有する約120万人分の匿名加工レセプトデータベースから、CKDの確定診断がついた方のデータを抽出し、診断がつくまでのペイシェントジャーニーを分析、専門医やアストラゼネカさんとも議論したうえで「生化学検査実施」「生活習慣病関連の診断名」「腎臓病関連の診断名」をアウトカムと定義しました。
データから対象者と近しい人たちを見つけ出し、コントロール群を作ったことも大きなポイントです。
劉 雷(以下、劉):例えば「疾患啓発を実施した対象者の30%の人が受診した」とわかっても、それをどう評価すべきかわかりませんよね。何もしなくても何かのきっかけで受診する人がいますから。コントロール群と比較することで初めてインパクトを明らかにできるわけです。
竹山:データを活用してアウトカムを定義する。コントロール群と介入群で効果を評価する。いずれもPREVENTが蓄積してきたノウハウによって実現できた、ユニークなポイントだと思っています。
―― 主な結果を教えてください。
竹山:コントロール群(n=6660)では、生化学検査実施率が26.0%(n=1731)、生活習慣病の診断率が32.9%(n= 2191)、腎臓病関連診断率が3.6%(n=239)に対して、疾患啓発群(n=740)では、生化学検査実施率が39.7%(n=293)、生活習慣病の診断率が43.0%(n= 318)、腎臓病関連診断率が9.2%(n= 68)と、疾患啓発群においていずれも高い結果が得られました。
劉:対象740名のうち312名(42%)に行動変容が見られ、想像していた以上の結果でした。「患者さんがリスクに気づく→通知の資材を持って受診する→先生が腎臓のリスクに気づき、検査を行う→検査結果から腎臓病関連の診断がなされる」という仮説に対する一つの実績となりましたし、医師が患者さんが持ってこられた通知を踏まえて検査を行うという行動変容も示唆されました。通知をお送りした0カ月目から両群の差が出始めて、徐々に差が広がっていますから、もっと長く追えばどんな結果が出たのか、とても興味深いですね。
●アウトカムの検討
アンケートで受診または受診予定と回答した人の診療行為名をコントロール群と比較
●アウトカムの結果(検査実施率)
レセプトの生化学検査(尿・糞・血液)の実施割合推移を介入群とコントロール群で比較分析
●アウトカムの結果(生活習慣病関連の診断名、腎臓病関連の診断名)
レセプトの生活習慣病関連の診断名1、腎臓病関連の診断名が付いた割合を介入群とコントロール群で比較分析
―― プロセスや結果から見えてきた課題はありますか?
竹山:行動変容にはグループによる差があり、例えば「直近1年間で1度も病院に行っていない」グループに対しては受診を促しきれませんでした。このような層に対する追加施策についてさらに検討する必要があります。
劉:本来リスクが高く、早い行動変容が必要であるいわゆる「岩盤層」は、この取り組みでも行動変容が見られませんでした。ここも引き続き検討が必要な課題だと認識しています。一方で、テレビCMや市民公開講座などの従来の疾患啓発活動は、結果を明確に追うことが難しいです。今回初めて、施策に対する結果を数字で明らかにすることができました。ROI(Return on Investment)について議論することもできますし、疾患啓発活動に継続的に投資していくための一つのKPI(Key Performance Indicator)ができたとも言えます。
Win×4のモデルで、スケールアップも横展開も視野に
―― 今後の展開を教えてください。
劉:例えばもっと大規模な群でも行動変容が起きるのか、スケールアップさせたプロジェクトを検討中です。また、CKDは経過が長く、ずっとフォローし続けるのは難しいのも事実です。過去のデータを活用して、中長期のリスク予測が可能なモデル構築などへのチャレンジも考えています。
竹山:今回は対象者を定義にならって抽出しましたが、今後の展開ではいくつかの仮説を立て、アストラゼネカさんと取り組みについて議論しています。
劉:実現できたら、もっと広く健保組合、国保の保険事業に使ってもらえるスキームになると期待しています。
大切なのはCKDの早期発見に貢献すること。持続可能なモデルを作りたいです。
―― CKD以外の疾患に応用することも可能ですか?
竹山:健診やレセプトのデータから適切な対象者を見つけられるような疾患であれば、横展開が可能です。
劉:私のチームが関わっているところでは、呼吸器疾患、肝疾患などが挙げられます。経過が長い疾患で、軽度の場合のリスク意識が低く、疾患啓発によって早期診断につなげられるようなものは、いろいろありますよね。
竹山:生活習慣病以外で疾患啓発を実現できたことは自信につながりましたし、疾患啓発の意義も再認識できました。医療費適正化や加入者のQOL向上に繋げるためにも、より幅広い保険者を対象にして、生活習慣病以外の 疾患でも疾患啓発を進めていきたいです。
―― 本プロジェクトのやりがい、意義をどう感じていますか?
竹山:PREVENTは、病気とうまく付き合いながら、より健やかな人生を過ごしていく「一病息災」を支える仕組みづくりを社会実装するスタートアップです。今回の疾患啓発は、そのビジョンを体現したものであり、しっかり結果も出せて本望です!
劉:アストラゼネカが掲げる「患者中心のビジネスモデル」のひな型が作れたのかなと思います。患者さんに正しい情報をお届けすることで、自分のリスクに気づき、自ら行動を起こしてもらう。そのモデルをエビデンスつきで示せた意義は非常に大きいです。
竹山:患者さんも保険者さんもアストラゼネカさんもPREVENTもうれしい、Win×4の事業になりましたよね。
劉:i2.JPとしては、拡張が期待できるモデルの第1号として紹介していきたいとも思っています。
―― コラボを通して感じたお相手の長所、i2.JPの魅力を教えてください。
竹山:規模の大きい事業会社からすると、スタートアップは、ともすればベンダーだと捉えられがちです。それは間違ってはいませんが、劉さんはパートナーとして同じ目線で同じ課題を見て、手も口も動かしてくれました。すごくやりやすかったし、うれしかったし、ありがたかったです。
劉:パートナーはパートナー、ベンダーではないですよね。対等な目線で取り組むからこそコラボのメリットが生まれるし、お互いの強みが生かされたシナジーが生まれるのだと思います。
PREVENTさんは竹山さんをはじめ皆さん、提案のクオリティ、インサイトの深さ・広さどれをとっても、本当に優秀です。プロフェッショナルがそろっていて、皆さんが「社会を健康にする」という事業ミッションに真摯に取り組まれていることが伝わってきました。
竹山:i2.JPのような幅広いオープンイノベーションを製薬企業さんが主導されているのは稀有で、とても素晴らしいと思っています。我々は参画して2カ月後に本プロジェクトが決まりました。これからも新たなアイデアを提案していければと思います。
劉:当初は7社・団体で始まった小さな所帯が官民学、アカデミアも含めて、どんどん大きくなっています。これからは、マルチステイクホルダーのコラボを目指したいです。
今回の取り組みも、社会実装して持続可能なモデルに作り替えていくとなると、我々2社だけでは力が足りません。もっと多くのステイクホルダーを巻き込んでサステイナブルな形にしていきたいし、それが実現できるように、i2.JPを育てていきたいと思います。
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